【10】彼女に言えない事がある

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そんな俺を見て、木崎は何かを悟ったのだろう。 俺に一言断りを入れると、大学時代からずっと変わらない赤いボックスから煙草1本取り出し、火を灯す。 「で、何を悩んでるんだ?」 熟れた手付きでそれを咥える友人の姿に、俺たちも歳を取ったなと、まるで他人事のように思う。 「……どうすることが正しいのか、分からない」 俺の言葉に、木崎のシャープな目尻が微かに開かれた。 木崎とは長い付き合いになるが、俺が弱音とも取れる発言をしたのは、今日が初めてかもしれない。 元々他人に興味のない俺は、今まで何かに悩むきっかけすらもなかったのだから。 「その子は遠山のことが好きなのか?」 真摯の眼差しでそう問われ、居心地の悪さを感じつつも 「自惚れではないと思っている」 そう、自嘲気味に答えた。 「そうか」 木崎は燻る火溜まりを灰皿の縁に寄せ、とんとん、と器用に落とした。
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