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そんな俺を見て、木崎は何かを悟ったのだろう。
俺に一言断りを入れると、大学時代からずっと変わらない赤いボックスから煙草1本取り出し、火を灯す。
「で、何を悩んでるんだ?」
熟れた手付きでそれを咥える友人の姿に、俺たちも歳を取ったなと、まるで他人事のように思う。
「……どうすることが正しいのか、分からない」
俺の言葉に、木崎のシャープな目尻が微かに開かれた。
木崎とは長い付き合いになるが、俺が弱音とも取れる発言をしたのは、今日が初めてかもしれない。
元々他人に興味のない俺は、今まで何かに悩むきっかけすらもなかったのだから。
「その子は遠山のことが好きなのか?」
真摯の眼差しでそう問われ、居心地の悪さを感じつつも
「自惚れではないと思っている」
そう、自嘲気味に答えた。
「そうか」
木崎は燻る火溜まりを灰皿の縁に寄せ、とんとん、と器用に落とした。
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