【10】彼女に言えない事がある

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「今度はどんなワケあり女なんだ?」 「彼女はこの世の汚れを知らずに育った、俺とは対極の人間だ」 「ふぅん。ならその子の前では素を出せないのがツラいのか?」 「いや、寧ろ彼女との時間は心地が良すぎて、それを壊したくない一心で、いつの間にか彼女の前では優しいだけの人間になってた。 だけどいつまでも彼女を騙し続けるわけにもいかないからな、つい最近、俺の過去を彼女に話した。彼女は少なからずショックを受けていたよ」 「……なるほどな。なんとなく分かったよ」 木崎は横向きに煙草を咥えると、細く長い煙を吐き出す。 形を失っていくその先を見つめながら、やがて静かな声色を落とした。 「遠山はその子を騙したわけじゃねーだろ」 「……どういう意味だ」 まさか俺に同情をするつもりなのかと、身構えた。 しかし木崎は素知らぬ顔で再び長い煙を一つ吐くと、俺に向き直る。 「優しいだけのお前は、本当に偽りのお前なのか?」
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