【10】彼女に言えない事がある

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ズン、と鈍い音を立てて、心の塊がひとつ落ちた。 「……はは。じゃあなんだ、俺、実はいいやつなわけ?」 「俺は遠山のことを嫌なやつだなんて思ったことねーよ。お前、俺にはちゃんと優しいぞ」 「……そうか?」 「あぁ、それから教授にも優しいな。それから親父さんと、弟にも。つまり遠山は人より線引きが強いだけで、元々冷たい人間なんかじゃないってことだよ」 ――まるで、世の理をも覆されたような気分だ。 自分が黒だと思っていたモノは、白であると定義されたようなものなのだから。 「過去の遠山がどうであったにしろ、俺が知ってるのは今の遠山一人だからな。それで十分だろ」 木崎の言葉に、いつか彼女に言われた言葉が重なった。 『過去も今も、春樹さんは春樹さんです、わたしは嫌いになんてなれません』 ……彼女の優しさだとばかり思っていたこの言葉も、木崎と同じ意図を持ったものだったのだろうか。
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