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ズン、と鈍い音を立てて、心の塊がひとつ落ちた。
「……はは。じゃあなんだ、俺、実はいいやつなわけ?」
「俺は遠山のことを嫌なやつだなんて思ったことねーよ。お前、俺にはちゃんと優しいぞ」
「……そうか?」
「あぁ、それから教授にも優しいな。それから親父さんと、弟にも。つまり遠山は人より線引きが強いだけで、元々冷たい人間なんかじゃないってことだよ」
――まるで、世の理をも覆されたような気分だ。
自分が黒だと思っていたモノは、白であると定義されたようなものなのだから。
「過去の遠山がどうであったにしろ、俺が知ってるのは今の遠山一人だからな。それで十分だろ」
木崎の言葉に、いつか彼女に言われた言葉が重なった。
『過去も今も、春樹さんは春樹さんです、わたしは嫌いになんてなれません』
……彼女の優しさだとばかり思っていたこの言葉も、木崎と同じ意図を持ったものだったのだろうか。
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