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「あー……」
大きく息を吐きながら、背もたれに身体を預ける。
一頻(しき)りの教示を受け、半ば呆然としていた。
木崎の言いたい事はよく分かった。
しかし長年連れ添った考えを、はいそうですかと容易にひっくり返せる程、人間は器用な動物ではない。
「これで悩みは解決したな?」
ニヤリと笑った木崎は目の前のグラスを持ち上げると、一気に半分、喉に流し込む。
俺は再び息をつくと、重い上体をゆっくりと起こした。
「もう少し早く、木崎と会っていればな……」
もしかしたら今の状況も180度違っていたのかもしれないと、憐れながらも後悔せずにはいられない。
「なんだよ、その子はもうお前を好きじゃないとかか?」
「はは。さすがだな、優秀なコンサルタントは」
「まじかよ?」
「彼女は今、必死に俺を忘れようとしている」
『恋愛はタイミングが全てだ』などという、何時かに耳にした安い言葉が、今になってこんなにも胸に響くとは。
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