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「で、なんだ。優しいお兄ちゃんは弟のために身を引こう、ってか?」
「まさか。俺はそんなに心の広い人間じゃない」
「じゃあ何を躊躇ってんだよ」
……本音を言ったら、恐らく木崎は怒るのだろう。
木崎は彼女と同じ、真っ直ぐな人間だから。
「彼女の幸せは、彼女自身で見つけて欲しい。俺に与えられたモノではなく、な」
――昔、何かの書籍で目にした言葉がある。
“両親から十分な愛情を受けずに育った女性は、年上の男性に幻想の父親を見る”、と。
彼女が俺に父親の姿を求めている、とまでは思っていない。
しかし彼女は初めて受けた異性からの優しさに、心酔している可能性も否めないのではないだろうか。
彼女が俺に抱いている感情は、本当に俺と同じ、愛情なのだろうか。
果たしてそれが一時の憧れや幻想でないと、言い切れるのだろうか。
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