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「その子は?」
「迷子みたいで……。なんとか泣き止んでくれたんですけど、お母さんが見当たらなくて」
「そうか」
小さな女の子は、俺のことをポカンと見上げている。
母親を見失って不安な精神状態の上、知らない大人の男が側にやってきたら、火に油を注ぐも同然。
「探してくるよ。母親、どんな人?」
女の子に直接聞くのは気が引けて、俺は彼女へ視線を送る。
その意図を察したのか、彼女は女の子へと向き直ると、再び微笑んだ。
「お母さん、何色のお洋服着てたか覚えてる?」
「……しろの、ふわふわ」
「そっか。髪の毛は? 長いかな? 短いかな?」
「……おねーちゃんとおんなじくらい」
「そっか」
彼女はもう一度優しく微笑み、女の子の頭を撫でる。
そしてチラリと、俺を見上げた。
「りょーかい」
俺は彼女に笑みを落とし、その場を離れた。
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