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母親は俺達に再三深々とお辞儀をすると、女の子の手を引いて帰っていった。
「おねーちゃん、おにーちゃん、ありがとう」
そう、恥ずかしそうに呟いていった女の子に、彼女はあの微笑みを返す。
そして二人の姿が見えなくなった後、ゆっくりとこちらに向き直った。
「春樹さん、ありがとうございました」
「……いや、見つかってよかった」
俺が親切心を働かせたのは、母子のためではない。
早く母親を見つけて、彼女を安心させたかった。
彼女に、ありがとうと言ってもらいたかった。
不純すぎるその動機に、彼女は全く気付いていない。
俺を、親切で優しい人間だと思い込んでいる。
それは、俺にとって幸か不幸か。
……どちらにせよ、今の俺は満たされているのだから、まぁ良しとしよう。
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