【3】これが性悪な俺のやり方

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「俺はイチジクが苦手」 そう優しさを込めて語り掛けたのは、彼女をここへ引き戻す為。 今、君の目の前にあるのは、悲しい思い出でも何でも無い。 俺という現実なんだと、気付いて欲しかった。 彼女ははっとした様子で顔を上げた。 驚きの表情の後に、ゆるりと薄く染まる頬。 柔らかさを取り戻した血色に安堵を覚えて、緩みそうになる口角をきゅっと結んだ。 その後、彼女は気を持ち直したのか、自分の事を楽しそうに話してくれた。 彼女は18歳で、先日高校を卒業したばかりらしい。 良かった。 とりあえず、犯罪にはならない。 俺が知っている女という生き物は、聞いてもいない事をとにかく喋りたがる。 その全てが俺にとってはどうでもいい事で、ひたすら聞き流すのみ。 けれど彼女から発せられる情報に、記憶の中枢である脳の海馬は、フル回転。 いつもならば相槌さえまともに打たないくせに、今の俺は彼女の記憶の全てを取り零したくないらしい。
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