【4】今の俺なら、君を上手に愛せるだろうか

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何故この仕事を選んだのかと問われると、正直返答に困る。 しかしあえて理由をつけるならば、これ以外の正当な道を見出だす事が出来なかったから、といったところだろうか。 大学を卒業し、大学院に入り、気が付けば当たり前のように教授の元で働いていた。 就活を試みた事もあったが、これといって惹かれる職種も企業も無く、早々に手を引いた。 親父の会社は実兄が継ぐ事が決まっているし、親父も俺の就職に関しては何も言ってこない。 幼い頃から、金は人の心を操る道具という認識しか無かった俺にとって、金を稼ぐ事への執着心は皆無と言っても過言ではない。 そんな俺が唯一関心のある「勉学」の延長線上である助教を職として選ぶ事は、ごく自然なルートだという訳だ。 仕事に対して向上心が無い訳ではない。 しかし、昇進意欲はこれといって無い。 将来、家庭を築く予定も無ければ、伴侶を求めている訳でも無い俺にとって、自分が苦労しない程度の金を稼ぐ事が出来れば、それで十分だからだ。 教授のように、愛すべきモノ、守りたいモノが出来たならば、俺の甘えた考えも変わるかもしれない。 けれど無慈悲な俺にそんな存在が出来る日がくる訳は無いと、永く高を括(くく)っていた。
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