【4】今の俺なら、君を上手に愛せるだろうか

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「食っていい?」 俺は笑うことさえ忘れて、彼女にそう尋ねていた。 「もちろんです。あの、お口に合わなかったら遠慮なく言ってくださいね」 「分かった」 俺は茶碗の目の前で、手のひらを合わせる。 「いただきます」という日本独自の文化には、これでもかというほどの感謝の気持ちが込められている。 食材への感謝、生産者への感謝、そして、料理を作ってくれた人への感謝。 母を早く亡くした俺にとって、食卓に並ぶ手料理は生まれて初めての体験だった。 「うまい」 最初に口をつけた味噌汁は、味も色も香りも、全て計算されたかのように美しく、美味だった。 「あの……お味は薄くないですか?」 「いや、丁度いい」 更にもう一口飲み込むと、あさりの爽やかな出汁の香りが広がり、 喉を抜けた温かさは、全身を包み込むような温もりへと変わる。
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