6450人が本棚に入れています
本棚に追加
/678ページ
彼女も俺の意見に安心したのか、ほっと目尻を落とす。
その表情を見て、こんな嫁なら悪くない、なんて思いながら、俺はかぼちゃの煮物へと箸を進めた。
期待と見た目を裏切らず、やはりそれも美味だった。
彼女が作る少し甘めの優しい味付けは、どんな高級料亭であっても勝ることは出来ない味なのだろう。
「うん、うまい。俺、この味付け好きだよ」
彼女に感謝や労いの言葉を送りたいのだけれど、何しろこの状況に慣れていない俺には、「うまい」以上の言葉は見つからなかった。
そして今、俺が感じているのは、満足感よりも幸福に近い。
ついでにそれも感じ取って欲しくて、彼女に微笑みを向けた。
視線が交わると、彼女は一度目を見開き、静止した。
そして柔らかに目尻が落ちて、口角がゆっくりと弧を描く。
「ありがとうございます」
頬は淡いピンクに染まり、瞳は微かに潤む。
――それは俺に向けられた、初めての「笑顔」だった。
最初のコメントを投稿しよう!