ヘビ

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 ところで、吉田が生み出した空間の歪みに飛び込んだロボットヘビ。誤作動で歪みに飛び込んだわけではなかった。機能は正常に作動しており、仕事を果たすべく、自ら穴に飛び込んだのだ。  吉田が四次元や異次元と呼んでいた空間、そこがどうなっているのかは誰にも分からない。あまり長い時間、そこにいたら気がおかしくなってしまうかもしれない。だが、ロボットヘビにはそういうことは関係なかった。ただ、与えられた仕事を成す為だけに動いていた。  異次元の空間はどこまでも、続いてはいなかった。入って一分もしない内に別の空間へとロボットヘビは飛び出した。そこは、今よりも遥か昔の世界であった。そこでは、今の人類、その祖先ともいうべき猿が生活をしていた。生活といっても、まだ猿の段階である。人間的で文化的な生活は送ってはいなかった。  その人類の祖先ともいうべき猿の中で一匹、ケガをした奴がいた。まだ試作であったロボットヘビは、その猿を人間と思い治療に向かったのだ。なんという高性能だろうか。  ロボットヘビは猿に近づくと、舌で猿の様態を確認すると、怪我した箇所を消毒し愛用剤を投与した。  注射器というモノの痛みに猿はビックリして飛び跳ねると、そのまま、どこかに立ち去ってしまった。その際、暴れてロボットヘビを壊してしまった。  ロボットヘビは仕事を果たした。しかし、猿に使用した栄養剤が問題であった。元々、人間用に開発されていた栄養剤。それを、猿に投与してしまった。栄養剤の効果は覿面(てきめん)で猿はただ元気になっただけではなく、頭がこれまでよりもずっと、冴えていることに気付いた。それは、確実に猿の間に大きな変化をもたらすことになった。  誰が知るだろうか。この猿がのちの、人類の祖先になるということを。飛び抜けた進化のせいで、仲間から暮らしてた楽園のような土地を追い出されるこになることを。  その話が長い時間をかけ湾曲し、『アダムとイブ』の話に原形になっていたとは。
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