第一章 髪結い

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空を見上げるとお日様がちょうど真上まで昇っていた。 昼か。 今日はまだ何も食っていなかったな。 武士は数日何も口にしなくても平気だという者もいるが、俺は二日何も口にしなかったら、飢え死にしそうになる。 忍耐の欠片もないのだ。 懐から一枚の包みを出した。 昨日茶店で買った饅頭だ。 腹が減ったので一口かじる。 買ってから時間が経っているせいか、饅頭の皮がカチカチだ。 硬くなった饅頭の味を堪能しながら、ヒラヒラと落ちてくるサクラの花びらをぼんやりと眺めた。 こんなに心地よい風に吹かれているというのに、心の中は憂鬱だ。 この町で奉公先が決まらなかったら、一体どこで奉公すればよいのだ。 途方に暮れるとはまさにこういうことだな。
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