第二章 町方同心

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2-1.名無しっ子 町を彩っていた桜も完全に散って、少しずつ緑の景色が広がり始めた。 本日は快晴。 晴れ晴れとした空の下、俺は家の前で乞食の子供に握り飯を食わせていた。 この乞食の子供が毎日物乞いにくるのだ。 お蘭さんから謝礼代わりに貰った米がたくさんあるので、握り飯を分けてやるだけの余裕はある。 乞食の子は真っ黒な顔で、嬉しそうに握り飯を頬張っている。 この子供はどうやら言葉が話せないらしい。 俺の言っていることは理解できるようだが、自分で言葉にすることができないのだ。 耳が聞こえないわけではないが、話ができないという不憫な子供だ。 両親のことを聞いても首を横に振るだけなので、恐らく親すらいないのだろう。 孤独になった幼い子供に飯を分け与えても罰は当たるまい。 そう思って毎日握り飯を食わせている。
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