第1章

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彼女は入ってきた。 その彼女の姿に、 クラスは言葉を失った。 誰かが、魔法でもかけたかのように、 身動きしない生徒たち。 それほど転校生の姿は衝撃的だった。 果てしもなく長く感じる、わずか一分ほどの時間。 それが終わると一気に、生徒たちはリアクションをとりはじめる。 男子たちは叫び声をあげる者、 頭を机に打ち付ける者。 笑い崩れて床に座り込む者 が続出。 女子たちは、どうリアクションしていいか分からず、 ひきつった笑顔の人が多い。 それほど転校生、強烈だった。 身長は150センチほどで、 バストよりウエストの方が明らかに大きい、相撲取りのような体型。 顎は2重あごを通り越して、3重あご。ほっぺにはニキビがあり、 ガマガエルの頭領のようだった。 そして、スカートは超がつくほどのミニスカートで、 筋肉質でサッカー選手よりも太いであろう足がそのスカートから見える。 なによりも驚いたのは、 彼女が真っ黒に日焼けしていることである。 ガングロ。 もはや、はるか昔に高校生を虜にし、今ではとっくに忘れ去られた、 ガングロ。 そして、ルーズソックス。 太い足をさらに太くみせ、それはもはや靴下ではなく、プロテクターのようだった。 そして、そんな彼女の個性のなかでも、際立った印象を与えているのは、彼女の目だ。 決して17歳のような澄んだ目ではない。 それは80歳を越えた、大物政治家のように、怪しい光を漂わせている。 黒目が大きく、まるで底の見えない井戸のような暗闇は、不思議な威圧感を持ち、 見ている者が吸い込まれてしまいそうな吸引力がある。 そして、その目が一番物語っているのは、 彼女の意志の強さだった。 私は、初めて彼女が入ってきたとき、黒い見たことのない動物が入ってきたのかと思った。 誇張ではなく本当にそう思ったのだ。 獣じみた彼女の雰囲気が私にそう感じさせたのかもしれない。 黒い珍獣は、クラスが静かになるまで平然と待っていた。 そして、ゆっくりと短い言葉を発した。 『小金沢松子です。よろしく』 普通の、なんの面白味のない挨拶。 しかし、彼女が言うとその言葉は十分なまでの重みを発揮し、 なぜか、クラスへの挑戦状とも受け取れた。 そして、このクラスが彼女から受けた印象は、恐怖だ。
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