第1章

2/8
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ
あの日から、彼は笑わなくなった。 それだけじゃない。泣きもしなければ、怒ることもなかった。 それはまるで生きる屍のようだった。 痛々しくて見ているのも辛かったけど、私は彼から目を離すことはできなかった。 ずっとずっと昔から、私は彼に恋していたから。 ************************************************ 「ユーリ…君のおかげで今日も村は平和だよ……。」 久しぶりに彼女の名前を口にしたら、急に目頭が熱くなった。この一年、涙を流すこともできず、笑うこともできず、感情なんてどこかへいってしまったものだと思っていたのに。 あれは一年前、僕は愛し合っていた彼女を殺した。僕の村には昔から一年に一度人身御供のしきたりがあり、僕の恋人のユーリが生贄に選ばれた。 通達の日、ユーリは泣きながら僕のところへやってきた。 「私、死にたくない……死にたくないわ…。助けて…私をさらってどこか別の村へ連れて行って!ねえ、お願い……!」 「ユーリ…それは…それはできない…。そんなことをしたらこの村はどうなる?僕達が生まれ育った村なんだよ?それに、ユーリの両親だってただじゃすまなくなる。きっとひどい罰を受けるか、殺される。ユーリ、村の掟には抗えない…。だからせめて、せめて最後の一週間はずっと一緒にいよう。一緒に寝て一緒にごはんを食べて、できうる限り二人の時間を大切にすごそう。な?」 「……うん。」 儀式は一週間後だった。僕はユーリをそう説得しながら、あることを決意していた。そして次の日、僕は村長の家へ出かけた。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!