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内海の言葉に従い、垣崎達は双眼鏡を覗き暴徒が着ている服を確かめる。
「……あー……」
「……あれか、公認キャラより稼いでるっていう梨の妖精か……」
「あいつ飯食うとき食べ物を背中から『インプット』するらしいぞ……」
彼らが目に捉えたその正体は、なるほど確かに梨であった。薄汚れたシャツにプリントされているのは、近年日本を賑わせているゆるキャラという特異な生物の一種。
「梨のシャツ着てるってことは、きっとあの人……好きだったんですね……岸田先輩の元カノと同じだ……」
「っ!?」
表情一つ変えずにボソリと呟いた内海の言葉に、反射的に反応したのは岸田。
「お、おい内海!お前よくもさらっと人様の古傷抉り返すようなことを……」
「えっ?……あっ!」
一瞬固まったかと思うと、岸田以上に過剰な反応を示し声をあげる内海。
「無意識だったのかよ……」だの「内海えげつねぇ……」だのと隊員達から小声が漏れる中、彼女は慌てて「ご、ごめんなさい!」と発すると同時に、気まずそうに目を逸らした。
「……でも私……あの見た目でスラスラと言葉を発するっていうのは、ゆるキャラとしてどうかと……」
「バカ野郎、それが斬新でいいんじゃ…………待て。お前なにナチュラルに話逸らそうとしてんだよ?」
「い、いえ……そんなつもりじゃ……」
何とも不毛な会話を繰り広げる岸田と内海。
その間に挟まれ、眉間にシワを寄せて困り果てた表情を浮かべる垣崎の様子に、周りの隊員達が苦笑いを浮かべる。
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