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 非常階段に出ると、ジョージが叫んだ。 「タツオ、ちょっと待ってくれ」  火災報知器のベルがやかましかった。ジョージは長髪のウイッグをとり、スカートを脱いだ。洗顔料をふくんだウエットティシュで顔をごしごしとぬぐう。胸からはパッド入りのブラジャーを抜いた。美少女は一瞬でTシャツと短パン姿のスリムな少年に変身する。  タツオもアロハシャツを脱ぎ、腕に張ったタトゥのシールをはがした。汗をかいていたので、腕がむずがゆい。ショルダーバッグに変身用具を押しこむと、ジョージがいった。 「きっとカウンターのやつは、男女のカップルがきたって、消防や警察に届けると思うからね。アクセスカードはだいじょぶ?」  タツオは胸ポケットの薄いカードにふれながら返事をした。 「ちゃんともってきてる。こんなところに長居は無用だ」  ジョージがにやりと笑った。 「ああ、さっさとトンヅラしよう。これ、かぶって」
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