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「サイコのことは知りません。昨日は顔を見ていないので」  柳瀬は細い身体(からだ)をしならせて、さっとタツオに振りむくと、数十センチまで顔を近づけてきた。マウスウォッシュのペパーミントと煙草(たばこ)の臭いがする。 「逆島断雄(さかしまたつお)、きみの周囲ではなぜか事件がよく起きる。保全部の上のほうでは、きみを徹底的にマークしろという強硬派もいるくらいだ」  だんだんと陰謀の形がおぼろげに見えてきたけれど、なぜ自分がその核心にいるのか、タツオ自身にもわからなかった。 「保全部の方々がそんなふうに考えるのは、遺憾(いかん)であります。ぼくにも訳がわかりません」  柳瀬の目にはこの状況を楽しんでいるような光があった。 「いったい誰なんだろうな。ネットカフェの個室のなかには、指紋も残されていなかった。犯人は変装していたようで、情報は混乱している。この地域一帯の道路を封鎖して、通行車両をあたったが、それらしい者は発見できなかった」
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