薔薇色のホテル

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園山塔子は、買ったばかりの リクルートスーツを着て、 面接用に用意された会議室内の、 ほぼ中央の場所で、 簡素なパイプ椅子に座っている。 そして塔子の正面の、 少し離れた場所に、 長いテーブルがひとつ置かれ、 その向こうには、 面接官の男が一人、座っていた。 男は清水と名のり、 このホテルの人事を担当している、 と話した。 塔子は見るからに緊張した顔で、 清水の、次の言葉を待っていた。 しかし清水は、履歴書もろくに見ずに、 ひと通り塔子の全身を眺めただけで、 最初の質問を投げかけた。 「お客様のご希望は、 たとえどんなことであっても、 叶えてさしあげるのが、 一流のホテルサービスです。 貴方には、それができますか」 「はい」 「本当に?……どんなことでも?」 「……はい」 もちろん、自信はなかった。 塔子はまだ十八歳で、 サービスと言っても、 駅前の喫茶店で、 アルバイトをした経験くらいしかない。 だが、今の塔子には、 それ以外の返事は、 用意されていなかった。 清水は小さく頷いた後、 上半身を乗りだし、 塔子の怯えるような目を じっと見つめて、 二つめの質問をした。 「では、もしお客様が望めば、 貴方はその人を、殺せますか」
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