夢に咲く花

8/9
前へ
/21ページ
次へ
その夜、私は夢をみていた。 夢の中で、私はいつものように、 白衣を着て診察室に座っていた。 ただ、見ているもの全てが、 色を失っていた。 私は思い立ったように、 あるものを探した。 しかしどこを探しても、 「それ」は見あたらない。 色鮮やかな花はどこにも、 咲いてはいなかった。 診察室のドアが開いて、 仮面をつけた男が入って来た。 男の手にはリボルバー式の拳銃があり、 弾薬を1発だけ装填させて、 シリンダーを回した。 男はそれを、私に差し出す。 仮面には何の表情も浮かんでいない。 私は拳銃を受け取って、 銃口を自分に向けた。 そして口に咥え、引き金を触った。 その瞬間、心臓は激しく踊りだし、 呼吸は荒くなった。 自分の意志とは反対に、 引き金に触れた指が動く。 唸り声が、銃口の隙間から洩れでる。 仮面の男は、正面に立ったまま、 ただ私を見ている。 私の指が、じりじりと引き金を引く。 次の瞬間… 私は、銃口を口から引き抜き、 仮面の男へ向けた。 私は、引き金を引いた。 銃声が、色のない診察室に響き渡る。 仮面の男は木の棒が倒れるみたいに、 真っすぐ背後に倒れた。 床に黒い血が広がった。 男は、全く動かなくなった。
/21ページ

最初のコメントを投稿しよう!

23人が本棚に入れています
本棚に追加