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白と黒しかない診察室で、
私は、手に拳銃を握ったまま、
もうずいぶんと長い間、
椅子に座っていた。
死んだ、仮面の男の黒い血が、
私の足元まで広がっていた。
私はぼそりと、呟いた。
「花が、咲いていなかったからだ」
私は思っていた。
恐らく私は、ここから出られない。
私が夢から覚める事はないだろう。
だが不思議と、私は冷静だった。
夢の世界に足を踏み入れた時から、
こうなる予感がしていた。
あの男が診察室に現れた瞬間に、
私の運命は決まっていたのかもしれない。
夢に囚われる運命…
その時ふと、
色のない空間に、
微かな花の香りが漂った。
姿の見えない甘い香りが、
まるであざ笑うかのように、
私の鼻を、ついた。
「夢に咲く花」― 了
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