【彼女は逃走不能】

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   慌てて制止したものの、時すでに遅し。  芹香の手から袋ごと中身が滑り落ちた。  転がり出てきたビールの缶は、あたしがいつも飲んでいるものだ。  芹香の気遣いを感じ、途端に背中が冷たくなる。  静けさの中、ふうと溜め息をついたのは先生だった。 「……すみません、毛利さん。突然」 「あ、いえ、別に」  言いながら、まだ芹香の目が泳いでいる。  ややあって、芹香の瞳は先生を定めた。 「5年前から……なの?」  自分でも止めるのが遅かったとは思ったけど、しっかり聞かれていた。 .
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