【彼女は逃走不能】

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   甘いカシスの香りに、思わず溜め息をついた。  あたしの言葉に何も答えることができなかった先生をあの場に残し、ようやく手を振り払って駆け出して逃げたのが、つい30分ほど前のこと。  いつもならゆったり帰ってくるから、コンビニや酒屋さんでよく冷えたビールを買ってくるんだけど。  お風呂上がりのあたたかい部屋で、きゅうっと一杯やるのがこの半年ほどの楽しみだったはずなのに。  なんてこった。  ビールを買ってくることさえ忘れてしまうとは。  頭の中でもうひとりの自分が「問題はそこじゃない」とちくちく責めてくる。 .
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