【彼女は逃走不能】

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  「彼女にあなたのことを悟らせることも、  あなたに彼女のことを悟らせることも、  僕はしてはいけなかった。  慎重にやっていたつもりです」  想像以上のことが先生の口から飛び出してくる。  その受け止め方さえ判らなくて、思わず腰が抜けた。  床にへたり込んだあたしを見、先生の瞳が苦しげに細められる。 「あの日、彼女との決着をつけて、それからあなたを迎えるつもりだった。ですが、泣かれてしまって……部屋に入れないわけには行かなかった」 「なんでよ! よりによってなんで、同じ日にそんな……!」  そう。  先生の言うことが本当だとして──あの日じゃなければ。  あんな場面を見なければ。 .
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