【彼女は逃走不能】

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   今とは違う今が、あたし達にはあったはずだ。  騙されていたのなら、そのままでいたかった。  時間と共に先生の中からも罪の意識が消えていって、何もかも風化していけば、たぶんそれでよかった。 「……僕が、耐えられなかったんです」 「え……?」 「もう教師生活が終わるというのに、  あなたと堂々と会えない理由を  いくつも抱え込んでいるのは、  僕の方だった。そんな愚かな日々に、  あれ以上耐えられなかった」  そこまで一気に言ってしまって、先生は呆れたように歪んだ笑いを低く漏らした。 「……結果、自業自得でしょうか。僕はあなたに捨てられたわけですが」 「先生……」 .
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