【彼女は逃走不能】

23/38
前へ
/38ページ
次へ
   先生は膝の上で、ぎゅっと手を握る。  せっかくきれいなスーツなのに皺になる……と、こんな時なのに思ってしまった。 「……5年」 「え……?」  先生の視線が、床にすとんと落ちる。 「5年、待ちました」 「……先生」  そんなこと、言われたって……。 「あなたを追わなかったのは、  ひょっとしたら、  そういう自分に自分で罰を  与えたかったのかも知れません」  ひどく、さめた声で。  先生は、そんなこと、言うけど。  どうしてか自分の口唇が震えていた。  それに気付いた瞬間、ぼろぼろと目から熱い滴が零れ落ちる。 .
/38ページ

最初のコメントを投稿しよう!

239人が本棚に入れています
本棚に追加