【彼女は逃走不能】

24/38
前へ
/38ページ
次へ
  「……勝手」  思わず漏れた声の中に、涙の影が混じるのはもう隠せなかった。  先生は、ハッと顔を上げる。  驚きに見開かれた琥珀色の瞳。  5年前は穏やかだったそれを、何度無防備に覗き込んだだろう。 「勝手だよ。そんで、狡い」 「飛鳥さん」 「他に女の人がいたとか、そんなのあたしと何の関係もないじゃない!」  ぼろぼろ、ぼろぼろと。  とめどなくこぼれる涙。  先生の瞳が、痛々しげに細められた。  目の下に軽く皺が寄って、あたしの痛みをちゃんと受け取ってくれているのが判った。  それが、ひどく嬉しい──だけど。 .
/38ページ

最初のコメントを投稿しよう!

239人が本棚に入れています
本棚に追加