【彼女は逃走不能】

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   ちょっと、待って。  子どもみたいなこと言ったりしたくない。  だけど、ドラマとか映画だったらこのままなし崩しに最後まで──。  そこまで考えて、自分が何かを期待していたことに気付かされてしまった。  その“何か”が何かって、そんなの。  急に意識してしまって、恥ずかしさがジワリと心を浸食する。  その羞恥心をどうにかしたくて身じろぎした時、足の間の違和感に驚いた。  助けが欲しくて、立ち上がろうとする先生の腕を思わず掴む。 「……飛鳥さん?」 「待って……」  先生はいったん、震えるあたしの手を見つめる。  何の疑いも持たないその目は、小さな子どものようだった。  彼がよこしまな気持ちでこうしたわけじゃなかったってことは、それだけで判る。 .
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