【彼女は逃走不能】

32/38
前へ
/38ページ
次へ
   ……よこしまなのは、あたしの方だ。  口で言うほど、もう先生に他に女の人がいたことなんて気にしてないくせに。  先生を問い詰めることさえできずに逃げ出したくせに、追ってくれなかったことだけ責めて。  なのに触れられて、簡単に陥落して。  それさえ先生のせいにしようとして──。  心の奥で、かさかさに乾いた何かが剥がれ落ちていくような気がした。 「先生、待って」  それ以上言葉なんて出てこなくて、彼の腕を掴んだまま、ただ首を横に振る。 「ど、どうしたらいいか、判んないの」 「飛鳥さん」 .
/38ページ

最初のコメントを投稿しよう!

239人が本棚に入れています
本棚に追加