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「では前田さん、お返ししますね。忘れ物」
先生は“先生”の顔をしてあたしに歩み寄ると、何事もなかったかのように携帯を差し出してきた。
「すみません……」
「いえ」
にこり、と邪悪なものなど何も含んでいない、清廉潔白そうな微笑み。
この人はずっとそうだ。
心の中に抱えているものが顔に出ない。
だから、判らなかった。
この人に、あたし以外にも気持ちを分け合う相手がいたことに。
「毛利さん」
「あ、はい? 先生何飲む? 色々買ってもらっちゃって」
芹香が手に持っていたコンビニの袋の中をガサガサと探り出したのを見て、先生は彼女を振り返った。
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