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考えるより先に、言葉が出た。
薄暗い昇降口でも、背中だけで判ってしまう。
あれは、前田さんだ。
彼女の細い肩が、ビクリと跳ねた。
「……あ。伊達、先生……」
おそるおそる振り返った彼女は、声をかけたのが俺だと判るやホッと表情を緩める。
その反応に、何かをくすぐられたような気持ちになった。
妙に、面映ゆい。
そんな気持ちになったのは思春期のいつか以来で、居心地の悪さを感じてしまった。
「もう、生徒はほとんど帰ってしまいましたよ。どうしたんですか」
「うん、もっと早くに帰ろうと思ったんだけど……」
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