【Side 伊達:その名は毒殺】

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   前田さんはそのまま言葉を続けようとしていたんだと思う。  が、俺と自分の間の何もない空間をぼんやりと眺めてから、こちらを向いたまま視線だけを窓の方に投げかけた。 「なんか、ちょっと、疲れちゃって」 「何か、ありましたか」  彼女の肩には、「大人に絡まれて面倒だ」という空気はまとわりついてない気がする。  少しだけ足を進めた。  俺の足音には反応せず、前田さんは溜め息をつく。 「先生、本当に言わなかったんだね。あたしのこと」 「え?」 「あのあと、他の先生になんて言ってくれたの」 「ああ……」  わざわざ言うことでもないと思って、彼女には何も伝えなかった。  だが、隠すことでもない。 .
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