262人が本棚に入れています
本棚に追加
「先生、」
まだ何か言いかけた前田さんの瞳が、驚きに見開かれる。
窓から差し込む夕暮れの柔らかな逆光が、目の前にいるはずの前田さんの輪郭を曖昧にした。
……駄目だ。
ぐるぐると、心臓が脈打つ度に甘い痛みが身体中を巡る。
その度、ズキズキと刺青のように刻まれていく。
──眩暈がするほど甘やかな、
これだって毒だ。
前田さんの手を包み込むようにして引いたあと──俺は、彼女の細い身体を抱きしめていた。
.
最初のコメントを投稿しよう!