実戦あるのみ

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もし毒を持っていたら、あの牙が掠るだけでも致命傷になりかねない。 正に、一瞬の油断が命取り。 今日一日、色んな猛獣と相対してきたこともあり、緊張感はあるものの焦りはそれほどなく、落ち着いていられていると思う。 冷静に、慎重に行動しなければ。 背中の防御力は剣を簡単に通さないほど高い。 顔面は稼動域の広い首のせいでなかなか狙えない。 となれば……狙うは腹部、か。 狙う部位を決め、俺は自分の周囲を素早く見回す。 岩場の多い小川に、大小様々な岩、そして木漏れ日を落とす大きな木。 首長鰐の体重がどれほどかはわからないけど、大きな枝であれば折れることはないだろう。 ワンパターンな戦い方になるけど、四の五の言っていられない。 木に吊るして腹部を狙う。 右手に剣を持ったまま、左手で再度ロープを出す。 錬術を使用するようになって、自分の能力の制限のようなものに気付くことができた。 それは、まずこのロープは俺の手が触れている状態であればある程度操ることができる。 けど、手から離れると俺の意思は伝わらず、ただのロープとなってしまう。 今のところ長さはおよそ50m、太さの最大直径はおよそ5cm。 長さと太さ、さらに伸縮も少しだけど調整できるようになってきた。 もしかしたら、慣れれば糸のように細くしたり、網のように編むこともできるかもしれない。 ちなみにミスティの錬術である投げナイフは最大で32本らしい。 それも制限があるらしく、自由自在に操れる物ではなく僅かに軌道を修正する程度とのことだ。 さらに、一度に扱えるのは片手にそれぞれ4本ずつで、両手で8本。 それが4セットで32本。 練成できるナイフのサイズは一定で、数を少なくしてその分大きくさせる、といったことはできないようだ。 その辺りの錬術の性質も人によって個人差があるらしい。 一本のロープを伸ばして頭上の太い枝を介し、首長鰐の胴体を狙う。 こいつがどうやって獲物の位置を把握しているのかはわからないが、視力でも獲物を判断しているらしく、伸びるロープを視線が追う。 僅かに視線が逸れた隙に、反対の手でもう一本のロープを伸ばして操り、空いた顎下に巻きつける。 そして首に巻きつけたロープを持ち前の馬鹿力で思いっきり引っ張ってやった。 無論、全裸で。
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