実戦あるのみ

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それからも何度か剣で弱点と思われる腹部を狙うが、周囲に現れた水の壁によってことごとく防がれ、それどころか逆に水の弾幕で反撃される始末。 せっかく動きを止めたのに! せめて俺も放術が使えて遠距離から攻撃できれば……。 遠距離からの、攻撃。 動きを止めるために使用しているロープ。 近づけないなら、いっそ近付かなければいい……。 俺は、持っていた剣から手を離した。 相手を吊るしていたロープを再度手に取り、両手で体を拘束する。 せっかく首長鰐の自由を奪ったこのロープを解くことはできない。 今手元にある武器の中でおそらく最も攻撃力のあるであろう剣を手放し、このロープで勝負を決める。 教えてもらった剣を選択しないという決断に、ガナトスさんとライアスさんに少しばかり罪悪感を抱く。 でもこちとら命懸けで必死な場面なので大目に見てもらおう。 体と首を捕えるロープに更に力を込める。 苦しいのか、周囲に纏う水の壁が一層激しく蠢き、辺り構わず水の弾丸を乱射し始める。 錬術のロープを両手で操り、昇術で別方向に手繰り、圏術で水の弾丸の弾道を読みつつ避ける。 久々の天術三種同時使用。 未だ体は慣れていなくて激しい頭痛と眩暈、吐き気は相変わらず容赦なく俺を襲う。 こんな状態でロープを手離そうものなら、怒り狂った首長鰐に食われて終わるだろう。 俺が力尽きてしまう前に、ロープで奴の体を縛り上げるか、あわよくば脊椎を折ることができるか。 もしくは、この状態のままミスティが戻ってきて加勢してくれれば……。 圏術を使用しているとはいえ、他の天術も同時に使っているから彼女の気配を探る余裕なんてあるはずがない。 俺の意識は目の前の敵の攻撃に集中している。 自分の体の中を駆け巡る天力を分配し、振りほどかれないための昇術と、攻撃を見誤らないための圏術を精密に操作する。 目の前に星が舞い、視界が徐々に赤く色付いていく。 息が上がり、鼻の奥から熱いものが込み上げてくる。 さすがに長時間は保たない。 このまま仕留めなければ……! 「硬い……体だな……!」 食いしばる歯の間から言葉が漏れる。 体を折ることはできないか? あのときのカマキリのような凶殻獣のように。 しかし、思った以上に首長鰐の体は頑丈だった。 これじゃだめだ。 このままのロープじゃ、だめだ。
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