自由市場

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俺『山崎シンヤ』は会社の経理を一人で任されていた。 当時、俺が働いている会社はそれほど大きな会社ではなく、社員が百名程の保険会社の下請けだった。 その中で俺は、真面目に働いていた。 だから、会社での評判も良い方だった。 だが、過ぎていくのは平凡な毎日だけ。 横領を始めた切っ掛けは、些細な事だった。 2つ歳上の、ギャンブルと女が大好きな、会田先輩が持ってきた領収書。 「シンヤ、お前にも分け前やるから、これどうにかして落としてくれないか?」 金額にして、十万円。 「どうしても、今日中にヤミ金に払わないと桁が一個増えるんだよ~っ!」 頼む、と言われ仕方なくやった。 ありがとう、と言われどことなく嬉しかったのを覚えている。 そして、平凡で退屈だった日常が、快楽に変わっていく事に嵌まった。 結果、俺は金ではなく、スリルを求め横領を繰り返した。 だが、そのスリルにも馴れてしまうと、感覚がズレ始めた。 横領にすら、飽き始めていた。 お金ばかりが貯まっていく裏通帳。 「もう、潮時かな・・・・」 それをみていると、いつからそこにいたのか、後ろからあの先輩の声がした。 「シンヤ、飲みに行こうぜ!」 「・・・・・・はい。」 俺は動揺しながら、裏通帳を鞄に入れた。
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