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半歩でも歩み寄ったら、保たれた社会空間は破られて、そこから先は個人空間なのに。
「同期の方の分と合わせて、2枚で宜しいですか?」
大きくも華奢な手のひらが、そっと私の左手を包み込む。
そこから丸まった紙を取り除くと、代わりに乗せられたのは、折り目一つ無い真白の名刺2枚。
思わず顔を上げた先には、端正な顔の緩やかな笑み。
「――ッ!」
『きゅん』どころじゃなかった。
心臓も呼吸も、血流までもが確実に、一時停止した。
……死ぬかと思った。
「あっああありがとうございます!」
「いえ」
片柳さんはもう一度笑みを落とし、私の左手に添えていた手を離すと、半歩後退する。
再び保たれた社会空間に、ハッとした。
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