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「それではまた、来週の水曜にお伺い致します」
一礼した黒髪がサラリと揺れる。
「失礼します」
緩やかな笑みを残し、くるりと反転する背中。
「――あのっ!」
去っていく香りに名残惜しさを感じて、思わず呼び止めてしまった。
しかし続く言葉が見つからず、「えっと、えっと」と左右に視線を泳がせて、ようやく浮かんできた言葉は。
「香水、なに使ってますか?」
見上げた彼の目が、微かに開かれるのを感じた。
――やってしまった。
何言ってんだ、この女。
そう思われたに違いない。
羞恥と後悔に苛まれて、居た堪れず俯いた。
バカすぎる。アホすぎる。
突入する穴がないのなら、いっそのこと掘ってしまいたいと、爪先にぐっと力を込めた。
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