5月上旬/運命のスレチガイ

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エレベーターから一歩外へ出ると、慣れ親しんだオフィスの風景と、日常の香りが私を出迎える。 ため息を一つ落として通路を見据えると、その先に浮かぶ非日常のシルエットに目を奪われた。 タイトなチャコールグレーのスーツを纏った、スラリと細い身体のライン。 俯き加減でこちらに向かってくるその人が『身内』でないことなど、一瞬のうちに判断できた。 「こんにちは」 緩やかな笑みと共に落とされた、凛とした声色。 返事をしようと半開きにした口からは、何も音が出ない。 辛うじてコクリと頭を下げたのみの、失礼な挨拶を交わした私の横を、その人は颯爽と通り過ぎる。 軌跡を描くようにふわりと舞うのは、清涼な香水の香り。 エレベーターに乗り込んだその人は、見開いた私の目と視線を通わせると、再び緩やかな笑みを浮かべて一礼した。 無機質な微音と共に、銀色の扉が閉ざされる。 ――非日常の、終わりの瞬間。
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