5月上旬/運命のスレチガイ

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「あのっ、私、人事部の篠宮と申します。先程は席を外していて、ご挨拶できなかったので……」 「そうでしたか。ご挨拶に伺うタイミングが悪く、申し訳ありませんでした」 「いっ、いえ、こちらこそ……」 二人の間にある距離は、恐らく1メールとちょっと。 パーソナルスペースにおいて、社会空間ギリギリの距離。 「では、折角ですのでご挨拶させて頂きます」 流暢な敬語を奏でながら、滑るような所作で名刺入れを取り出す彼。 「株式会社RAPAC、人事コンサルタント、片柳十夜と申します」 私の身長に合わせるように細い上体は少し折れて、気持ち低めに名刺を差し出す。 「この度、御社の人事コンサルティングを担当させて頂くことになりました。宜しくお願い致します」 距離から口調、そして目線に至るまで、全ての所作が完璧に仕立てられている。 余りのスマートさに、私は完全に見惚れていた。 またしても半開きの口からは、音が出ない。
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