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「……と、既にお持ちだったのですね」
「へっ?」
落とされた視線を辿ると、握り締めた拳の中で、無残にも丸まった名刺がコロンと寝返りを打つ。
「――あっ! すみません! 同期から奪って、夢中で走ってきたらつい……!」
「奪って?」
「だって、私はまだ頂いてなかったので……!」
動揺と、焦燥と、羞恥と。
宜しくない感情が混ざり合って、自分でも何を言っているのか分からなくなった私は、アスファルトの1点を見つめた。
……穴があったら突入したい。
そんなことを考えていた頭の上で、ふっと笑う音がする。
「名刺なんて、いくらでも差し上げますよ」
清涼な香りが、ふわりと舞った。
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