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1章
港町に夕日が沈み、空が薔薇色に染まりだす。
3Dパネルに映し出された立体映像である。
2069年夏。世界ロボット博覧会の一角にR技研の展示ルームは有った。
テーマは人間に近いロボット。
大人気を博したこの催しも、今日で最終日を迎える。
「愛シテルワ、アキラ」
「僕モダヨ、リョウコ」
オープンカフェに向かい合って座った東洋人モデルの2体が、テーブルの上で唇を重ねた。
その横では白人モデルの2体が珈琲を飲みながら談笑している。
「中々良い表情ですね」
部下の中島健吾にそう言われ、AI部門の主任技師・山崎譲は目を細めて頷いた。
「感情機能搭載は正解だったな」
ロボット達はその時の“感情”によって表情を変える。
例えば、怒った時は眉毛の角度が何度上がるとか、悲しい時は逆に何度下がるとか。
それらは数値化された、デジタルな表情である。
「プロトタイプ(試作機)の2体をバーテンとウェイトレスにしたのも、結果的には正解だったんじゃないですかね」
開発段階で作った試作機は、カフェの店員という設定で、模擬店の中を動いている。
展示用の機体が人工皮膚を使ってほぼ人間に近い外観に作られているのに比べ、試作機2体の方は鮮やかなメタリックブルーのコーティングが施されている。
展示用の機体を、より人間らしく見せるための演出である。
「中身はほとんど一緒なんだけどな」
「そうか。山崎さんは反対でしたね」
試作機をメタリックブルーにして、展示機体の”ダシ”に使うあざとい演出に反対した者も多い。
開発の初期から関わってきたメンバーは、この試作機の方に愛着を持っているからだ。
「とにかく無事に終わって良かったよ。例のウィルス騒ぎの時はどうなるかと思ったが」
「そう言えば、沢渡の奴、今頃どうしてるんでしょうね?」
「彼は捕まったよ。そしてA級の人格矯正を受けた」
「人格矯正……そんなの本当に有るんですか?」
「俺も都市伝説だと思ってたがな、どうやら実在するらしい」
「人格矯正って、確か記憶を消されるんですよね?」
「消されるだけじゃない。その後に別の記憶が上書きされる」
「つまり、別人に生まれ変わるってワケですか」
「オヤジ(所長)の話では、沢渡には農業従事者の記憶が上書きされたそうだ」
「農業……あの沢渡が……」
中島は呆然と呟いた。
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