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「誰にも言うなよ。表向きは行方不明ってことになってるんだ」
沢渡恭介。中島と同期で、天才的な閃きを持ったAI技術者であった。
(俺がもっとちゃんと育てていれば……)
山崎の胸に後悔の念がこみ上げてくる。
沢渡という若き才能を、正しい方向に導いてやれなかった。
自分の上司としての未熟さだ。
2章
二ヶ月前、ほとんど完成間際のAIに沢渡が新しいシステムを提案した。
当然その時点からAIを変えれば完成は何ヶ月も先に伸びる。
しかも、そのシステムは沢渡の頭の中でもまだ完成していないと言う。
上層部は取り合わなかった。
夏のロボット博に間に合わなければ意味が無い。
「今からではもう無理だ。来月には展示用の四体は全て完成する。見たら驚くぞ。人工皮膚と表情機能でほぼ人間に近いものに生まれ変わる」
「生まれ変わる?」
沢渡は低い声で笑い出した。
「外ヅラだけ人間に似せて、何の意味が有る? あんた等に出来るのは、機械を人形に変えることだけさ。物質から生命へ、彼等を本当に生まれ変わらせる事が出来るのは、俺だけだ」
「沢渡、例え間に合ったとしても、おまえのシステムを搭載することは出来ないんだよ」
沢渡の提案した“CHAOS-BASIC”(混沌の基礎)というシステムは、十年前に制定されたヒューマノイド(人型ロボット)に関する国際規約
『全てのロボットに使用されるAIは、国際法で定められた規定の安全制御システムの監視下で動作することを義務とする』
これに完全に違反しているのだ。
「山崎さん、あんたも爺さん達の言いなりか」
「俺だって今のAIに満足してるワケじゃない。だが、それでも少しづつ“知能”として進歩はしている」
「知能? あんなものは知能でもなんでもない。ちょっとだけ自動的にロジックを追加修正出来る機能が付いた、ただのプログラムさ」
沢渡の言うこともわからなくはない。
この四半世紀、ハードの進歩にAIの進歩が追い付いていない事は山崎も実感している。
「なぁ沢渡、おまえのその“CHAOS-BASIC”、安全制御システムの配下で作動させることは出来ないのか?」
「それじゃあ意味が無い。全ての行動の根っこになる部分なんだ。どんなシステムもこいつの上位に来ることは出来ない」
「だが、今それをやったら犯罪者だ。おまえだって知ってるだろう」
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