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沢渡の顔から歪んだ笑いが消え、気味悪いくらい真剣な表情になった。
「怒り、悲しみ、喜び、憎しみ。そいつらの上位に来るものが在るとしたら、それは断じて”安全制御システム”なんかじゃない。それは、もっと根源的なもの。“生きる”と言うことだ」
「それは分かるよ。食欲、性欲、睡眠欲、それらが大元にあるからこそ生命と言える。だがロボットにはそれはないだろう?」
「違う。ただ物理的に生きるって意味じゃない。自分という存在の認識、自分がここに“存在する”という意識。それを持たせることが出来れば、彼等は生命になれる」
「ロボットに自我を持たせようと言うのか?」
「そこまで踏み込めなかったら生命なんて作れない」
山崎は小さく一つ溜息をついた。
「沢渡、AIは思考するシステムだ。生命ではない。生命を作るなんてのは神の仕事だ。人間の領分じゃないんだよ」
山崎がなだめるように言うと、沢渡は険しい眼で山崎を睨んだ。
「山崎さん、例えばもしあんたの手や足や内臓が機械になったとしても、それでもあんたは生命だ」
「それは、そうだろう……」
例え義手や義足、人工心臓になってしまったとしても、自分が自分であるという意識が在る限り自分は生命だと思う。
「じゃあ、あんたの身体すべて、脳細胞の1つ1つまで全部人工的に作られたもので入れ替えられたとしたら?」
「それは……」
山崎は答えることが出来なかった。
脳細胞の1つ1つまで人工的な物質にするなんて事が将来的に出来るようになるかどうかは別として、自分の“全て”が人工物になってしまったら、
それは本当に自分と言えるだろうか?
それは生命と言えるだろうか?
その時自分の意識はどうなってしまうのだろうか?
わからない。いくら考えても答えが出ない。
「山崎さん、俺はね、魂なんてものは信じない。もし仮に人間の脳のニューロンとそっくり同じ働きをするシステムを作ることが出来たとしたら、そいつは間違いなく生命になる」
「出来っこないだろう、そんなもの」
「もうちょっと。あとちょっとの所まで来てるんだ! 俺はそいつの、ほんのすぐ近くの場所まで来てるんだよ!」
沢渡は泣きそうな顔になっていた。
狂気。山崎にはそうとしか思えない。
「なぁ沢渡、もし仮に、おまえのシステムを搭載したロボットが人を殺したいと思ったらどうなる? そいつを考えてみたことはあるか?」
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