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「人間と同じだよ。人間だって相手を殺したくなることは有る。だが殺したいと思っても、殺せばどうなるかを考える」
「じゃあ考えた結果、それでも殺したいと思ったら?」
「殺すよ。いや、殺せなければならない。色々な状況を考え、悩み、苦しみ、その結果自分の取るべき行動を決めたとしたら、その意思決定が“安全制御システム”なんていうルーチンワークに覆されるようでは生きているとは言えない」
「だからそれは無理なんだよ。わかってくれ」
山崎のその言葉に沢渡は答えなかった。
それっきり沢渡は誰のどんな言葉にも反応しなくなった。
その一月後、沢渡が失踪した。
そして、ウィルス騒動が起こった。
白人モデルの男性型”ジョージ”のAIにウィルスらしきプログラムが紛れ込んでいたのだ。
ウィルスのIDは“CHAOS-B”。
幸い、トリガーが引かれる前に発見し、除去することが出来たが、沢渡が犯人であることは疑いようもない。
その後しばらくして、沢渡が捕まった事と、彼が人格矯正を受けた事を所長から聞いた。
無論、公にはされていない。
超法規的な措置である。
彼の優秀過ぎる頭脳と過激な思想が危険だと当局に判断されたのだ。
3章
博覧会終了の翌日、山崎が定刻より三十分早くスタッフルームに着くと、新人の島村美貴が既に来ていた。美貴は飛び級で大学を卒業した秀才少女で、あの沢渡が、後輩の中で唯一認めていた逸材である。
「今日から回収作業ですね」
美貴がそう言って珈琲を煎れてきてくれた。
「今日は随分と早いな。まだ三十分も前だぞ」
「私、早くデータ見たくて、つい早く来ちゃいました」
「ははは、君らしいな」
好奇心と知識欲の塊のような娘だ。
(沢渡が今は農業従事者として生きていると知ったら、この娘はどんな顔をするかな?)
山崎がそんな事を考えていると、乱暴にドアが開けられ、レスラーのような巨漢が入って来た。
「山崎、ちょっと来い。おまえに見せたいもんがある!」
山崎の同期で、ハード部門の主任技師を務める丸山大樹であった。
「なんだ、そんなに慌てて。なんか有ったのか?」
「いいから来いよ。凄ぇもん見せてやる!」
丸山はそう言うと、山崎の返事も待たずに部屋の外に飛び出していった。
「しょうがないヤツだな」
山崎が仕方なく丸山の後を追いかけると、美貴も付いてきた。
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