PlasticTears2069

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「山崎さんも丸山さんが言う様に、誰かのイタズラだと思ってるんですか?」 「まぁそう考えるのが妥当だろうな」 「そうでしょうか?」  美貴は不満そうな顔をした。 「じゃあ、君はどう思ってるんだ?」 「私、一つの可能性について考えているんです」 「可能性?」  山崎は一瞬ギクリとした。 「もし、沢渡さんのウィルスがあの2体にも感染していたとしたら……」  美貴はそこまで言うと、探るような眼で山崎を見た。  山崎は動揺を隠すために2本目の煙草を取り出して火を付けた。  美貴がその小さな胸一杯に膨らませている空想と同じ様なことを、少し前まで自分も考えていたのだ。  だが、時が経つにつれ、やはり丸山が言うように試作機のコーティングに反対していた誰かがやったと考える方が現実的だと思うようになっていた。 「楽しいね、そういう空想をするのは」 「空想なんかじゃありません。私はそれが真実だと思います」  意外なほど強い口調で言う美貴に、山崎は少しだけ意地悪なことを言いたくなった。 「根拠は何だ?」 「根拠?」 「そう、君がそこまで言う根拠は何か、と聞いている」  美貴は何か不思議な生物でも見るかのような眼で山崎を見ていた。  どうして今の会話の中に“根拠”などと言う単語が出て来るのか、それが理解出来ない。そういう顔をしていた。 「山崎さんだってアレを見たじゃないですか。なのにどうして……」  なのにどうして、そう思わないのか――  あなただってあの時、抱き合う彼等に心奪われたではないか――  美貴の非難の声が、鼓膜の内側から聞こえてきた。 「私、あの時の光景をはっきり思い出せます。今でも胸が締め付けられるんです。あれがイタズラだなんて絶対信じられません」    山崎は上を向き、眼を閉じた。  どんな完璧な理論をも吹き飛ばしてしまうくらい感性が光輝く時が、人には有る。  ただ、それがいつ始まって、いつまで続くのかが、本人にも判らないのだ。  ニ十代の前半で、もうそういう時間を持てなくなってしまう者も居るだろう。  五十を過ぎてもまだ、そういう素晴らしい時間の中で生きている者も居るだろう。  そして、ほんの短い時間ではあったが、あの時確かに自分はそういう時間の流れの中に居たのだ。  感性が圧倒的なパワーで理性を粉砕する至福の時間。
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