『ついてない男』

9/9
前へ
/26ページ
次へ
 とにもかくにも、なんとか危機を脱した。  僕も塚内君も疲労困憊。 「しばらく休まない?」  塚内君の提案に 「うん。一ヶ月休業しよう」  僕も賛成した。  精神的疲労を癒やすには、今持っている金で豪遊するのが一番だ。  どうせ再開すればまたすぐに金は貯まるのだ。  それから一ヶ月、僕は金を使いまくった。  家賃二十万のマンションに引っ越し、競馬、パチンコ、キャバクラ通い。    一ヶ月が過ぎてお金が尽きた頃、塚内君の家に行ってみると、驚いたことにミス・ラッキーが居た。 「僕達、結婚したんだ」 「結婚!?」 「うん。こんな美人に迫られたら断れないだろ」  つまり、ミス・ラッキーがミセス・ツカナイになったワケだ。 「で、仕事のことなんだけど、多分もうダメだね」 「ダメって、どういう事?」 「彼女と結婚してから、なんか運が上向いて来ちゃってさ、競馬も麻雀も結構勝つんだ」 「嘘でしょ?」 「本当。でもその代わり、彼女の運が前より落ちちゃってね。なんか複雑な気分だ」 「……なんてこった」  塚内君に憑いていた貧乏神とミス・ラッキーに付いていた幸運の女神が相殺されて、二人とも平運になってしまったのだ。  こうなると豪遊が悔やまれる。  所持金ほぼゼロ。マンションは即解約しなきゃならないし、事務所も引き払う必要が有る。  意気消沈して事務所に向かうと、廊下でミレルノさんと鉢合わせした。 「事務所たたむ事になってね。ミレルノさんともお別れだ」 「……」 「どうしたのミレルノさん?」 「……見えます」 「へっ?」 「あなたの後ろに貧乏神の姿が、ハッキリと」            ー 了 ー
/26ページ

最初のコメントを投稿しよう!

24人が本棚に入れています
本棚に追加