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「そう。間に合ってよかった」
その女はあまり表情を変えず、その転がる目玉や肉片を拾い集める。傍目から見れば、その光景はあまりにも猟奇的すぎた。
「……あ、あの。その緑色の変なのって、なんなん?」
俺は恐る恐るその女に聞いてみる。この気色悪い生物を見ても身じろぎひとつせず、それどころか勇敢にも退治したのだ。間違いなくこの女なら、この生物のことを知っているに違いない。
そう思って質問をぶつけてみた所、その女はきょとんとした表情で俺の顔を見てきた。澄んだ青金のオッドアイがまっすぐ俺の瞳を射抜く。
「何って…。あなた、スライムに会ったことなかったの?」
「…す、スライム!?」
俺は裏返った驚きの声を挙げずにはいられなかった。スライムといえばRPGゲームの敵のド定番モンスターで、青くてゼリー状の肉体を持つ、どこか憎めない表情をしたザコ敵であろう。子供心ながらそのグラフィックを見て、コイツくらいなら自分でも倒せそうだと思ったほどである。そんなザコ敵の代名詞たるスライムが、こんな目玉がごろごろついているようなおぞましい姿形をしているなど悪い冗談だ。序盤の敵というよりは、魔王の根城に出てくる状態異常攻撃などを繰り出してきそうな風体である。
「そう、スライム。さっきみたいに顔に張り付かれたら窒息するし、そこを狙って頭を溶かされ死に至ることもある。顔も良く見たらベタベタだし、早い所洗わないとかぶれるよ」
「お、俺の知るスライムがこんなに恐ろしいモンスターなわけがない…」
俺はそう一人ごちると、また新たな疑問が湧いてくる。先ほどこの女が剣を振った時、青白い閃光のようなものが見えた気がした。そしてその刃に貫かれたスライムは一瞬にして凍結し、爆発四散したのだ。これは一体どういう理屈なのだろうか。そもそもなんで剣を持っているのだろうか。考えれば考えるほど疑問が止まらない。
「そ、それと。さっき『顔が抉れる』と言ったのは…」
「凍らせた所を剣で叩くんだから、動いたら顔ももってっちゃうかもしれないのは当たり前でしょう」
「つーか何で瞬間的に凍らせることなんてできんの」
俺がそう聞くと、今度こそその女は面倒そうな表情と呆れが入り混じった顔で見下げてくる。
「…世間知らずにも程があるね。私は氷の力を操る魔法剣士よ、そのくらいできて当然でしょ」
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