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「ギギギ…くやしいのう…くやしいのう…」
結局、その事実だけを言い残してアイドル達はそそくさと舞台袖に引っ込み、我々同志達はスタッフの機械的な扇動によってあれよあれよと出口まで追いやられ、チケット分の金額が返金されて、反論も虚しく帰宅の途につかざるをえなかったのだった。つい先ほど着替えをすませたばかりの薄暗い四畳半の部屋に戻った俺は、電気を点けるのももどかしく、汗の臭いが染み付いたベッドになだれ込んだ。そんな俺の口から洩れた言葉こそが、冒頭の一文である。帰宅中には雨にも降られ、窓からは時折雷の光が差し込む。
「神4が失踪したくらいでなんだよ…なんで活動そのものまで止めちまうんだよ…。ほんと、プロ根性の欠片もない、ぜ…」
恨み節を吐く口は、自分でもわかるほどに震えていた。そして気がつくと、俺の頬には一筋の涙が流れていたのだった。こんな風に涙を流したのなど、まだ真面目に大学に通っていた頃に高校生にカツアゲされた時以来だ。
しかし、この悲しみはそれの非ではない。ネットで出回っているようなCD箱買いなどの暴挙はしていないものの、それなりに生活費を削って投資してきたAKB24が。突然の活動停止。テレビを点ければ速報でその情報が出回り、それを読み上げるアナウンサーの真面目な声がさらに俺の精神に追い打ちをかける。まるで裏切られたような気分で、俺は力なくペンライトを両手に握る。その先から迸る白い光も、涙で滲んで見える。
「…認めらんねー」
こうして独り言を言うしかできない自分にも腹が立ち、また涙がこぼれた。幾度となく俺の心をその曲やダンスで癒し、勇気付け、最終的に堕落させてしまったその甘美な歌が聞けないなど、もうこの世界に、俺が生きる理由と生き甲斐が消えてしまったのだ。無駄に肥えた指でペンライトを、握り砕かんばかりに握り締める。
「…俺、これから何の為に生きていけばいいんだよ。24の皆に投資をすることこそが、俺の存在意義だったのに……。それを…それを奪われた俺は……」
ぶるぶると腕を震わせて、そのペンライトを高く掲げる。そして俺は、激情の奔流に任せて咆哮した。もう近所迷惑なんて、知ったことか。
「何を楽しみに生きていけばいいってんだよーーーっ!!」
どん、と鈍い音を立てて畳に転がるペンライト。それと同時に窓の外で、雷が大きく轟いて窓をがたぴしと軋ませつつ揺らした。
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